『真に守るべきモノ』





第九章「闇の書、再び」


カチャカチャ

ここ一週間で既に3つの世界の崩壊を確認した。
私達アースラスタッフはこれと言った動きをまだ行っていない。
3つの世界・・・・どれもまだ未確認な世界。
そこに世界が存在した痕跡があると言うだけだった為、時空管理局は動いていなかった。
でも、仮にそれが今関わっている事件の犯人だとすれば・・・。

(全てに人が住んでいたとしたら、数え切れない人が亡くなった事になる)

そう思った瞬間、作業していた両手が止まり音を立てていたキーボードが静かになる。
沈黙は続く。
正直、私自身の士気はかなり低下している。
世界が滅んだ事もあるが、美由希ちゃんが悲痛な声で連絡をくれた事もある。
恭也さんの重体。
なのはちゃんやシグナムの話を聞く限り、信じられない出来事。
けど、私なんかより美由希ちゃんやなのはちゃんの方がもっと信じられないんだろうな。
はぁ・・・と知らず知らずのうちに溜息を漏らしていた。

「・・・・・・・・溜息が多いと幸せが逃げるぞ?エイミィ」

不意に私の後ろから声。
首を回して後ろに向くとクロノ君が呆れ顔で私を見ていた。

「随分と大きい溜息だな。
 何かあったのか?」

右隣に歩み寄ってきながらそう尋ねてくるクロノ君。
視線をクロノ君から画面へと移し、作業を再開しながら口を開く。

「最近暗いニュースばかりでちょっと気持ちが沈んじゃってるんだ。
 明るいニュースが欲しいよ」

そんな愚痴をこぼす私をクロノ君はやれやれと言った感じで苦笑する。

「・・・・まぁ確かに明るいニュースが欲しいのは確かに同感だ。
 僕達も人の子だからね。
 こう暗い方にニュースが続くと精神的にまいってしまう」

私の作業画面を見ながら感想を漏らすクロノ君。
ちらっと横目で見たその顔は少し疲れを見せていた。

「それでエイミィ。
 何か新しい情報は入ってきたか?」

その問いに小さく首を横に振る。

「ううん。
 世界の存在していた可能性の痕跡以外ではこれといった情報は無いよ」

「そうか・・・・」

疲れた顔に更に暗い影が落ちる。

「ただ・・・・・」

言ってからあっと思った。
今の状況でまた暗い話をするべきじゃないと思っていたのに先に口が動いてしまったからだ。
しかし、口から出てしまったものを戻す事も出来ず、重く口を開く事にした。

「なんだ?」

「・・・・気になる話をさっき耳に挟んだの。
 第一級捜索指定遺失物の痕跡が見られたみたい」

「ロストロギアの?
 そうか・・・・。
 でも、その担当は僕達じゃないだろ?」

クロノ君の言葉に少し伏せ目がちに答える。

「ところがそうでも無いみたい・・・」

「何故だ?」

一息ついて続けた。

「・・・・あくまで未確認だけど・・・・・もしかしたらそのロストロギア・・・・・闇の書かもしれないんだ」


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「首尾は?」

暗い闇夜に染まる街。
高台から街を見下ろす事の出来るその場所に一人佇(たたず)む人物が居る。
声を出し話をしているが、その周りに人は居ない。

(順調だ。けど、あんまり成果は出てねえな)

だがその人物には声が聞こえる。
そう、それは念話。
長距離先に居る相手に話す事の可能な方法。

(こちらも順調に事を運んではいるがさほど成果は上がっていない)

「・・・・そうか」

そう聞いても表情に変化は見られない。
成果が無いなら上げるだけ。
安直だが正論である答えが生まれる。

「・・・・・次の獲物は見つかったか?」

(現在探査中。今日はもう無理じゃないかしら?)

更にもう一人の人物に聞くが、返って来たのは打ち切らないかと言う意見。
確かに、今日はもう既にこの街のリンカーコアを集めつくした。
ここらが引き上げ時かとも考える。

「・・・・・・・だが、主の母君は一刻も早く完成させろとの命令だ」

(だが、別の場所に移動しないと今日はもう収穫すらないぞ?)

実に的確な意見。再び思案する。
確かに命令も大事だがこれ以上は見つかる可能性もあった。
故に決断は早く出来た。

「分かった。
 では、今日はこの辺りで引き上げよう。
 帰ろう、主が待っている」

(((了解)))

暗い街に四本の光の矢が走る。
高台に佇んでいた人物の手には古びた古文書があった。


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「ふ〜ん、私達が眠ってる間にそんな事があったんだ」

ここは医務室。
アインツベルンの森での戦闘で、私と士郎とライダーの三人は全治一週間ほどの怪我を負った。
まぁ、ライダーはそれ程深い怪我では無かった様だけど・・・・。
私と士郎の怪我の程度ももう殆ど回復しており、既に体を起こして普通通りに動かす事が出来るまでになっていた。
と言っても、無理な戦闘は勿論禁物。
暫くは大人しくしている事を自分の中で決めていた。
目を覚ました私は妹の桜に事の顛末(てんまつ)と今の状況を詳しく聞いているところだった。

「遠坂も知らないのか?その時空管理局って言うの・・・・・」

「知るわけ無いじゃない。
 私が持つ知識はあくまで私達の世界での話よ?
 次元の外・・・・・・異世界の情勢まで知らないわ」

士郎の発言に少しムッとしながら答える。
勿論悪気が無いのは分かっているのだが、その分余計に腹が立つ。

「・・・・・で、これからの方針とかは決まってるの?」

「今は無限書庫って言う所で大河さん達が居た世界・・・・アヴァターについての資料が無いか探しているの。
 他の具体的な指針は決まって無いです」

桜の言葉に少し考え込む。

「リン?」

ライダーが私の名を呼んだが、今は答えずに思考に没頭する。
一分ほど考えて再び顔を上げる。

「なら、私達は私達の状況を整理しましょう。
 イリヤ」

「なに?」

士郎の膝の上でゴロゴロとじゃれていたイリヤに声をかける。
もっと士郎にじゃれていたいのだろう。
返事に少し棘がある。
勿論、そんな事は気にする必要は無いわけだが・・・・。

「また始まった聖杯戦争について教えてくれない?」

「・・・・・・・・・・・」

私の言葉にイリヤは急にしおらしくなり、俯く。
誰も詰め寄る事も無く、ただイリヤから言葉が出てくるのをじっと待つ。
やがて覚悟を決めたのか、スッと顔を上げた。

「もう今回のは聖杯『戦争』じゃなくなってるわ」

「聖杯戦争じゃない?」

イリヤの言葉に士郎が疑問符を浮かべる。
それは私や桜をはじめ、ライダーにも言えることだ。
私達の疑問を余所にイリヤは言葉を続ける。

「ええ、戦争じゃない。
 魔術師の殺し合いと言う形の降霊儀式である聖杯戦争だけど、今行われているのは違う。
 一方的な干渉で聖杯を呼び寄せようとしている。
 私達が行ったら絶対に失敗するやり方を行使しているの」

「でも、それだとサーヴァントは何故存在しているんですか?」

「サーヴァント事態が聖杯戦争における一つのシステム。
 多分、強引なやり方で聖杯を呼び出そうとしているのが原因でサーヴァントシステムが切り離されただと思うの。
 つまり、切り離されたのが第五次聖杯戦争のサーヴァントシステムと考えたら・・・・・」

「その時に存在したサーヴァントが切り離された事になるってわけか?」

「正解。
 でもこれはあくまで推測。
 確かな保証は無いの」

自分の意見に保障と確証が無い事を悔いるイリヤ。
表情は少し暗い。
そんなイリヤの頭に士郎が手をポンと置いた。
そのまま優しく頭を撫でる。

「あ・・・」

「あんまり気にするな。
 推測でも話を聞けたらそれでいいさ」

「そうです、全く何も無いよりずっといいです」

桜もイリヤを慰めるように言う。
でももしイリヤの話が当たっているとしたら・・・・・。

(神の聖杯戦争にはサーヴァントシステムは不用だって事になる。
でも、聖杯にはサーヴァントでないと触れる事は出来ないはず・・・・・。
それとも神には触れる事が可能って事なのかしら?
もしくは・・・・・)

そこでまた一つの可能性にひっかかる。

(器であるイリヤを破壊しようとしていたのを見る限り、神が求めているのは聖杯じゃない?)

「・・・・リン?」

ライダーが私の名を呼んだ。
多分、思考している姿が気になったんだろう。
出来るだけ平静を装い返事をする。

「ん?何?」

今はまだ推測の域を出ない。
なら無用な混乱を招く発言は控えるべきと考えた。

「・・・・・いえ」

ライダーにも何かしらか伝わったのだろう。
ここは黙って心で感謝する。
そんなやり取りの中、ドアが開く。

「少し失礼するよ」

そこには黒い服を着込んだ少年が立っていた。
私は彼とは面識が無い。
が、もしかして彼も時空管理局の人間なのか?

「クロノ君。
 どうかしましたか?」

桜が少年・・・・クロノに尋ねる。

「いえ、ブリーフィングルームに収集をかけに・・・・。
 皆さんの力を貸して頂きたいので・・・・・」

外見とは裏腹に物凄く落ち着いている。
もしかしたら士郎より大人っぽいのではないだろうか?

「リンディ提督とレティ提督の二人がお呼びです。
 次元の乱れの関係者全てに収集が掛かっています。
 一緒に来ていただけますか?」

クロノは少し軍隊口調掛かった喋り方で私達全員に問うた。


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「第一級捜索・・・・・・・何だって?」

「第一級捜索指定遺失物です、マスター」

俺の疑問にリコが答えてくれた。
ここはブリーフィングルーム。
無限書庫での作業に追われていた俺達に集合が掛かり、作業を止めこうして集まったんだ。
今この場に居ないのは、なのはにフェイト、それにアルフとはやての四人。
なのはの兄の見舞いを兼ねて、四人とも今は元の世界に戻っていた。

「そうそれ。
 で、それが一体どうしたんだ?」

リンディ提督に質問したが、返事は一歩踏み出したクロノから返ってきた。

「第一級捜索指定遺失物の痕跡を確認しました。
 担当は恐らくアースラスタッフになるかと思います」

「恐らく・・・・・って事は決まってないの?」

「ええ。
 でも、十中八九僕達の担当になると思います」

「なんで?」

クロノの考えにリリィが疑問を投げ掛ける。
第一級・・・・・・なんとかってのが何なのか正直ピンとこないけど、それがアースラの担当になるってのとは関係は無い。
アースラの面々の実力とか実績がそれに結びついてるかもしれないが、これだけの組織だ、他に振られる可能性も十分にある。

「私達は以前、そのロストロギアと接触した事がある為・・・・・ね」

リンディ提督から答えが返って来た。
成る程、確かに以前接触した事があるのならその経験を生かす事が可能となる。
そう言う意味ではクロノの考えはよくわかった。
でもそこでリコが釈然としない顔をしているのが目に入った。

「接触・・・だけだったんですか?
 ロストロギアの確保、管理が時空管理局の仕事と聞きました。
 接触と言う事は、以前は確保に失敗したってことですよね?」

リコの言葉にアースラクルー以外の視線が集まった。
そこには先ほどあった安心ではなく、驚きを含んだ戸惑いの表情。
俺は代表をするように言葉を投げた。

「・・・・・そうなのか?」

悲痛・・・・とは少し違う。
どちらかと言うと言葉に詰まった、困惑の色が時空管理局の面々に見えた。
それに再び疑問を浮かべた。
が、次の答えを聞いた時、その状況を理解する。
それは確かに困惑以外何者でも無いのだから・・・・・。

「いえ・・・」

クロノがゆっくりと口を開いた。

「僕達は闇の書を確保しました。
 その主と共に・・・・・」

そう言いながら視線がシグナムたちヴォルケンリッターへと向けられる。

「我らヴォルケンリッターと主はやてがその証拠。
 我らは闇の書のシステムの一部、そして主はやてが最後の闇の書の主」

「最後?」

「既に闇の書は・・・・・・リィンフォースは失われているんです」

「リィンフォース?」

凛が聞きなれない言葉を反復する。

「・・・・・主が与えた新たな名だ」

「その名前と想いを持って逝ったんだ」

ヴォルケンリッターの顔に僅かな悲しみが滲む。
恐らく、この場にはやてが居たら同じかそれ以上の悲しみが伝わってきたのかもしれない。
彼女は優しそうな子だったから・・・・。

「今はやてさんが持つデバイスもリィンフォース・・・・。
 正確にはUなんだけど・・・・・。
 器はそのまま使用しているから・・・・・」

「・・・・・・」

二代目、リィンフォースの神妙な面持ち・・・。
身長が30cmの人の姿をした少女。
最初見たときは勿論、今でも慣れないが茶化す雰囲気ではない。
その痕跡が仮に本当に闇の書だと言うなら、彼女達が犯人と疑われる・・・・か。
確かに困惑するなと理解する。
なら・・・・・。

「それなら俺達が闇の書とやらの捜査に加わればいいわけだな?」

俺の言葉にクロノが顔を上げて見据えてくる。

「ええ。
 大河さん達にも協力していただきたいんです。
 プランとしては、アースラで最後の痕跡があった世界に向かおうと思っています。
 それと、ヴォルケンリッターとはやてにも動向してもらう」

クロノが少し厳しい目でシグナムへ視線を移す。
腕を組んでいるシグナムはその視線をしっかりと受け止めて答える。

「・・・・それは私達の監視・・・・と言うことだな?」

その言葉に空気が少し沈んだ。
が、それを打ち破ったのはレティ提督だった。

「勘違いしないでね、シグナム。
 貴女達を疑っているんじゃない。
 貴女達の潔白を証明したいのよ」

そこには部下に疑惑を向けられた上官の願いが込められている。
むろんシグナムもそれは分かっただろう。
でなければ、今見せる表情・・・・口元に笑みを浮かべることなど出来ないだろうから・・・・。

「ええ、分かっています、レティ提督」

「・・・・・なのはとフェイトはどうするのですか?」

それはセイバーの言葉だった。
俺も同じ事を考えてた。
フェイトはともかくなのはは今精神的に辛いはずだ・・・・。
兄がそんな状態なら尚更。
・・・・仮に未亜がそうだったら俺は・・・・。

「ねぇ、私、そのなのはって子の所に行きたいんだけどいいかしら?」

それは思い掛けない提案だった。
声の主は凛。
小さくに手を挙げていた。

「遠坂?」

「凛?」

士郎、それにセイバーが共に疑問符を浮かべて凛の顔を見ていた。
凛は顔をリンディ提督に顔を向けたまま、言葉を続ける。

「はやて・・・・って子がこっちに来るのは良いとしても、あっちが手薄になるのは良く無いわよね?
 話を聞いた限りではなのはとフェイトって子だけって事でしょ?」

凛の言葉にリンディ提督は静かに首を縦に振る。
それを確認して凛は更に言葉を紡ぐ。

「なら、私と桜、それにリリィがそっちに向かうって言うのはどうかしら?」

「「え?」」

それは桜とリリィの声。
凛の提案に自分達の名が連なった事が驚きを呼んだのだ。
二人とも目をパチクリさせている。

「・・・・その構成に意味はあるのかしら?」

レティ提督が静かに感じた疑問を口にする。
そう、俺も同じ事を思っていた。
その三人がなのはの元に行く理由。

「病み上がりの私は正直、力になれないと思うの。
 で、私一人では意味が無いからこの二人を推薦した。
 ・・・・・これで理由にはならないかしら?」

何かひっかかる。
凛ならもっと明確な意味を込めた答えを返すであろう。
そう思えて仕方が無い。
それはセイバーや衛宮も感じている。
顔にありありとそう浮かぶ。
リンディ提督もレティ提督も不可解に思っているようだ。
だが、ふぅとひと息吐くと顔を上げ凛の申し出を受けた。

「わかりました。
 では凛さん、桜さん、リリィさんにはなのはさんの世界に言ってもらいます。
 向こうでの詳しい事は着いてからなのはさんとフェイトを交えてで良いかしら?」

「はい。
 あと、何かと装備の準備をしたいので、一度冬木の家に寄らせてもらいたいんですけど・・・・」

「ええ、構いません。
 ・・・・・女の子には色々と準備がいりますものね?」

リンディ提督が茶目っ気たっぷりの優しい笑顔でそう最後を締めた。
皆これには驚いたものの、管理局関係者は少し苦笑してその光景を見守っていた。
どうやらこの茶目っ気はリンディ提督なりのリラックス法のようだった・・・・。
こうして、俺達の次に行う事は決まりそれに対して各々が動きだした。
・・・・・この時、敵も既に動いていたとは知る芳も無かった。


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「・・・・・・・・・・・・・」

私はじっと目の前に建つ洋館を見上げていた。
久しぶりに・・・・・本当に久しぶりに遠坂の家に帰ってきた。
幼少時に間桐の家に養子に出された私にとっては、二度と帰ってこないはずであった家。
再びここに居る事に多少違和感を覚えながらも、心の中で嬉しく感じていた。

「さっ、中に入って」

姉さんがそう言って、既に呪文の開錠を行い終えた扉へと入っていく。
私は多少躊躇いながらも、それでも十数年振りの帰宅を喜んだ。
居間に入って、ゆっくりとソファに腰を下ろした。
姉さんはキッチンへ向かい、私とリリィさんの分のお茶を用意して慌しく居間を出て行く。

「じゃ、私は少し出てくるから二人とも待ってて」

「え?ちょ・・・凛?」

「姉さん??」

「それじゃね〜」

言うや否や扉を閉め、部屋を出て言った。
沈黙。
部屋に残された私とリリィさんはただ呆然と、たった今姉さんの出て行ったドアを見つめていた。
大きな時計のコッチ、コッチと振り子の音が部屋に響く。
取り合えず、このままじっとしていても仕方が無かった為、どちらからとも無くソファに腰を下ろす。
私達二人の間に沈黙が流れる。
特に話事が無く自然と訪れた沈黙。
決して嫌な沈黙ではなかった。
が、その沈黙はリリィさんによって破られた。

「ねぇ、桜。
 私気になっていた事があるんだけど・・・・」

多分、リリィさんが疑問に思っているのは私と姉さんの関係。
言い辛そうに少しリリィさんの目が泳ぐ。

「・・・・その・・・・聞き難いんだけど・・・」

ある程度予想も出来ていたから顔には表れなかったと思う。
むしろ冷静に口にする事が出来た。

「・・・・・私と姉さんの関係・・・・ですか?」

「・・・・・・・うん」

昔持っていた嫌な笑みでは無いと、自分では思う。
普通に・・・本当に普通にリリィさんの目を見る事が出来た。
リリィさんから向けられた目には驚きがあった。
聞き返されるとは思っていなかったんだろう。
リリィさんは小さく頷いた。

「そうですね。
 このままではちょっと退屈ですから・・・・・。
 私の話せる限りで良かったらリリィさんの疑問に答えますよ?」

私は少し高揚していたのかもしれない。
悲しくて嫌な話になると分っているのに何故か私達の事を知ってもらうのが嬉しく感じていた。
多分、知って欲しかったんだと思う。
私達は今、目の前に襲い来る戦いの日々をこれから戦い抜くであろう仲間に・・・・・。
それから私は姉さんとの関係をリリィさんに話していった。
時間の許す限りで・・・・・。


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(さてと・・・・・)

家を出た私は一度家を振り返り、再び足を進めた。
目指す先はかつて兄弟子が居た場所。
日の高い今の時間帯なら他に移動手段は存在していたが、あえて徒歩で言峰教会に向かう。
自分が体感した事と、気絶している間にあった話を照らし合わせつつ自体を整理しながら歩く。
元々大きな出来事・・・・戦いになる様な予感はあった。

聖杯戦争の再開、異世界の救世主戦争、吸血鬼、時空管理局。

自分が体験した一つ目と話に聞くだけだった三つ目。
そして、突然の時空転移により聞かされた二つ目に自分を保護してくれた四つ目。
あまりに猛スピードで沸き上がる問題に正直頭が痛くならなくも無い。
だけど、いくつか分った事があった。
一つ目はイリヤの言っていた聖杯。
多分『戦争』は機能していない。
その証拠にサーヴァントがサーヴァントに対してピリピリと緊張を張り詰めていないのである。
相手を倒す事が最大の目的だったサーヴァント達が相手に敵意を向けていない時点で戦争そのものは止まっているのんだ。
なら目的は『聖杯』そのもの。
神が何の為に『聖杯』を求めるのかは分らないけど・・・・・。
二つ目は時空管理局。
彼らは言わば時空を行き来する警察の様なもの。
私達の持つ魔術師としての定義からは外れている。
そして彼らは万能ではない事。
管理局を名乗っているけど、異世界に関しての資料とデータが少ない。
今管理・・・もしくは干渉している世界のデータはあっても他の世界のデータが異常なまでに少ない。
故にデータの無い世界の技術でデータの無い術を取られると一方的にやられるのは必至。
つまりは穴だらけなのである。
三つ目、・・・・私達は今、断崖絶壁の上に立たされて居るのだと言う事。
神の目的が世界の破壊…もしくは新たな創造だとするなら、根の国アヴァターが滅んだ時点で垣根の世界は滅ぶ事になる。
大河達の話を聞いた限りでは神………その意志を引き継いでいるイースがアヴァターを直接狙う事は今は無いらしい。
けど、それはイース自身が言った事であり、大河達がそれを妨げているわけでは無いのだ。
なら………

(いきなり、趣旨を変える可能性は十分あって、それを防ぐ術が無い)

自分の思考に嫌気を感じながらも、思考の展開を止めずにそのまま歩く。
考えながら歩いているといつの間にか冬木大橋に居た。
道路の横にある歩道を歩く。
僅かに視線を上げると前から穂群原学園の制服を着た女性が歩いて来ていた。
登校するには少々遅い時間帯。
それも徒歩でだと尚更だ。
私は特に興味を示さずにその先を見つめようとした。
が、顔を見て興味・・・・と言うより、声を掛けずにはいられなかった。
その女生徒に・・・・

「・・・・・・・なんであんたがその服を着ているのかしら?」

驚いきもあったが、それ以上に余りにも似合い過ぎているその姿に聞かざるを得なかった。
目の前のメガネをかけている女性・・・・シエルには・・・・。

「あら?どこかおかしいですか?
 この制服で間違いは無い筈なんですが・・・・・」

分かって言っているのだろう。
わざとらしく、自分の背中を覗きながら服装をチェックするシエル。
いや、だからむしろ似合いすぎ・・・・。

「・・・・あんた、確かアインツベルンで姿を消したって聞いたけどまだこの街に?」

私の問いにさっきまで普通の女子高生を装っていたシエルの目が鋭く変わる。

「・・・ええ。
 私の目的はまだ達していませんので・・・・」

「答えなさい、あんたの目的って何?」

「答える義務はありません」

即答。
分かってはいたけど、こうも返されると・・・・。

「・・・・いいわ。
 なら質問を変えるわ・・・・。
 学園に紛れて何をしようと言うの?」

総目的はムリでも今している事ぐらいは聞きだしたい。
そう考えた私は現在向かうのであろう学園に切り替える。
シエルはふぅと息を吐き、言葉を紡ぐ。

「・・・・・・・・・現状、を知る為ですね」

「現状?」

ゆっくりと相対していたシエルが歩を進め私とすれ違う。
私は視線を外す事無くシエルを見続ける。
シエルは背を向けたまま、振り返らずに続ける。

「今起こっている聖杯戦争の現状です。
 当事者を見て聞いていけば何か分かるかと思ったのですが・・・・」

そこで一度言葉を切り、振り返る。

「これが中々上手くいきません。
 まぁ、残ったマスター達から何か情報をと思ったのがそもそもの間違いなのかもしれませんね」

苦笑した笑顔を浮かべるシエル。
学校に入った・・・・と言う事は接触対象は慎二・・・・いえ、葛木ってわけね。
なら・・・・。

「なら、どうして抜けたの?
 イリヤに聞けば簡単だったのに・・・・」

「確かにそうです。
 が、あの時は別の組織との接触は得策ではないと考えたので・・・・」

少々失敗したと言う顔がありありと見て取れる。
わざとかとも思えたが、どうやら本当に思っている様だった。

「それに、ここで会えたのも何かの縁ですしその辺りの事も教えていただけませんか?」

「嫌よ」

今度は私が即答する。
さっき言われたお返しに近かった。
それにシエルが隠し事をしている以上、私もカードを切るわけにはいかない。

「・・・・ですよね〜」

がっくりと肩を落とすシエル。
・・・・今の彼女を見ているとどうも埋葬機関の人間である事が不思議に思える。

「・・・・でも、条件次第ってところかしら?」

「?」

そこでシエルが疑問符を浮かべる。

「シエル。
 私の質問に『ヒント』をよこしなさい。
 変わりに私も貴女の質問に『ヒント』で答えてあげる」

「・・・・・・・・・何故『答え』ではないのですか?」

「私の問いにあんたが正確な『答え』を持ってるとは思えないからよ。
 でも、あんたの問いには恐らく私は『答え』を持っている。
 これだと不公平でしょう?」

「等価交換・・・・ですか?」

「そう言う事」

私はウインクしながら答える。

「もう一つ。
 あんたの目的がなんなのかは私は知らない。
 でも、多分それはこれから私達は大きく関わってくる。
 だからあんたは私達とは『別』で情報を集めて欲しいの」

「・・・・・・・・・代わりに私が必要な時は手を貸して頂ける・・・・と?」

「こちらも情報を提供するわ。
 勿論、あんたの力も必要だけどね」


「・・・・・・・・」

シエルが黙って考えている。
眼鏡をかけて制服を着ているせいか、考える仕草がよく似合っている。
少しの思考の後、シエルは顔を上げ、私の意見に同意した。

「それで?
 あなたの聞きたい事とは何なのですか?」

「―――――の居場所を知りたいの」

「!?―――――ですか?!
 ・・・・・・・・・・・・さすがに私は彼女の居場所は知りません。
 ですが、カレンなら分かるのじゃないかと思います」

「何であんたが知らないのにあの子が知ってるのよ?」

顔に苦笑を浮かべてシエルが答える。

「教会でも私個人にも彼女の居場所は引っかかりませんから・・・・・。
 彼女なら知ってるんじゃないかと思っただけです」

「そう、ありがとう」

「では私の質問ですけど・・・」

「誰かサーヴァントに会ってみなさい」

「サーヴァントに・・・・・ですか?」

その疑問に私は首を振る。

「少し言葉が足りなかったわ。
 キャスターに会ってみなさい。
 彼女なら今回の事・・・・・少しは何か情報を持って居るかもしれないわ」

私の発言にシエルが少し納得のいかない顔をする。
そこをあえて気付かないフリをして話を続ける。

「彼女の知っている事を聞いておいて。
 その情報を元に繋がった答えは貴女にちゃんと提供する」

「それは私が情報を得るのは確実では無い」

「貴女から正確な情報を貰っていないのは私も同じなんだけど?」

決して悪びれずに彼女の顔を見る。
そう、共にヒントを出し合ったつもりだけど、どちらも答えには程遠い。
けど、決して無駄にはならないはず。
今は互いに互いのヒントを信じるのが一番だろう。
そこから幾ばくかの沈黙。
が、シエルがふっと微笑むと背を向けながら言葉を投げてくる。

「・・・情報ありがとうございます。
 なら早速、柳桐寺に向かってみます」

「お礼を言われる事は何もしてないわ。
 私もあんたに情報を貰ってるしね」

にこやかなシエルの顔。
けど、それが少しだけ真剣な顔つきに変わる。

「・・・・・・最後に一つ、聞いていいでしょうか?」

「何?」

一拍置いたあと、シエルが口を開く。

「何故―――――を探しているのです?」

私はその問いに背中で答えた。

「・・・・・・・借りは返す主義なのよ、私」


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目の前に広がる景色。
そこは辺りが闇に包まれた街だった。
アースラからの転送を経て俺達はこの暗闇に包まれている街に来ていた。
天気の状態が不安定なのと、既に日が傾いているのが関係しているのだろう。
文字通り闇が広がりつつある。

「・・・・・・人が・・・・居ませんね」

リコがそう呟く。
石造りの家と道。
空を見る限りもう日は落ちる。
だが、それでも人が外に出ていてもおかしくは無い時間帯だ。
だからリコのその言葉がやけに何かを物語っている様に思えた。

「シャマル。
 探査状況はどないや?」

シュベルトクロイツを手に既に騎士服に着替えているはやてがシャマルに尋ねる。

「それが・・・・・」

ここに着いてから広域での探査魔法を展開していたシャマルが何やら言い難そうに言葉を濁す。

「どうした?」

「・・・・引っかからないの。
 人が・・・・と言うか生き物がいない」

「そんなわけないだろ?
 だってこうやって街があるのに・・・・・」

俺はシャマルの言葉を否定する。
今日はたまたま天候が悪いから家の中に人が居るはず。
そう俺は考えていたんだが・・・・・。

「・・・・・」

シャマルは小さく首を振る。
それはシャマルも分かっていたのだ。
だから今の状況に一番驚いているのだろう。
茶化す様な仕草をしていた俺だが、さすがにそうも出来なくなった。

「・・・ですが、最初から居なかった・・・・と言うわけではないみたいですね」

「そうみたいです」

街の一角を見ながらセイバーがそう口を開き、リィンがそれに同意する。
その先にあるのは青果を置いている屋台。
そこに置かれているりんごを手に取りながら言う。

「・・・・まだ瑞々しい。
 つい最近、収穫したばかりのものだ」

「つまりほんの少し前までは普通に人が住んでいたって事か?」

「ええ」

「皆でどこか別の場所に移り住んだのか?」

「シロウ、それだと食料がここに置いている意味が説明できません」

衛宮の言葉を否定するセイバー。
確かに、移り住んだのなら食料なんかは必ず持っていくはず。
これは移り住んだんじゃなくて・・・・。

「・・・・・消えちゃったんだね」

声。
この場に居る者のではない。
女の声が響いた。
周りに居た皆も同じ様に驚きながらも周囲を見渡す。
居た。
石造りの家の屋上。
淡い翠のワンピースを着た金髪の女の子が足を組んで座り、俺達を見下ろしていた。
注視する。
その姿に俺は見覚えがあったからだ。
そう、それは俺たちを吸血鬼から護ってくれた少女の姿。

「フェイトちゃん?
 どうしてここに?」

はやてがそう口を開いた。
髪を両側に括っているがその姿は間違い無くフェイトであった。
フェイトはにっこりと無言の笑みをこぼす。

「・・・・・・・・・」

「フェ・・・・」

「主、少し待ってください」

フェイトに歩み寄ろうとするはやてをシグナムが手を前に出し静止させる。
その行為に驚いたはやてだが、シグナムの真剣な顔を見て疑問を口に飲み込んだ。
はやてが引き下がったのを見てシグナムは再びフェイトに顔を向ける。

「・・・・・・・・・テスタロッサ。
 何故お前がここに・・・・・いや、それよりもお前は本当に『テスタロッサ』か?」

「・・・・・・・・ふふ。
 シグナム、変な事聞くね?
 私は『テスタロッサ』だよ?」

違う。
俺は直感でそう感じた。
確かに姿形はフェイトに似ている。
が、知り合って間もない俺でも彼女があんな妖しげな笑みをする様な娘じゃないと分かっている。
シグナムにはもっと違って見えたのだろう。
その顔は一気に険しくなった。

「・・・・・・・レヴァンティン!!」

《Nachladen!》

シグナムのレヴァンティンは主のその気持ちを読んだのだろう。
いつもの機械的な声ではなく、感情を感じさせる声に聞こえた。
ガコンとカートリッジのロードが行われ、それに伴い炎の魔剣に魔力が通じる。
既にシグナムの姿は魔剣を片手に目の前に見えるフェイトに攻撃を開始していた。
普段からは想像も付かない、激昂する声を上げながら・・・・・・。

「私の知るテスタロッサは!!今の貴様の様な笑い方はせん!!!!」

軌跡を描きレヴァンティンが振り下ろされる。
目の前に居るフェイトに向かって。
だが・・・・。

 ギャン!!

甲高い金属音が響き渡る。
シグナムのレヴァンティンがフェイトの目の前で防がれている。
そこには似て非なる姿のレヴァンティンがあった。

「何!?」

「・・・・・・我が主には触れさせん」

 ギャイン!

再び甲高い音が響く。
その音とともにシグナムが飛ばされるが、地面に叩きつけられる事無く態勢を立て直し再び視線を上へ上げる。
俺たちもシグナムに駆け寄りながら相手を注視した。
そこには今傍に居るはずのヴォルケンリッターの姿があった。

「あれ・・・・・私?」

「な・・・・・なんの冗談だよ?」

シャマルもヴィータも驚愕の顔色が見て取れた。
それはそうか。
自分と同じ顔の人間が目の前に居られれば、精神的に心地よくない。
違うのと言えば、彼女達の纏う騎士服がこちらに居るシグナム達と異なる事。
あちらのヴォルケンリッターの騎士服は本当に禍々しい、黒を基調とした甲冑のそれだった。
だが、それにもましてあれは一体?

「ふふふ・・・・・」

フェイトが今だ尚、妖しい笑みをこぼす。
今全員が持つ疑問を問うたのはセイバーだった。

「・・・・・・・貴女達は一体何者だ?
 フェイトやシグナム達の姿を借り、一体何を企んでいる?」

静かに一歩踏み出し、体を半身に剣をやや下がり気味に持つ。
問いにフェイトは悪戯っぽい少女の笑みを浮かべ答える。

「別に姿は借りていないんだけどな〜。
 これは私達本来の姿だし・・・・」

「ふざけるな!!
 同じ姿の存在なの、まずありえない!!」

その光景が気に障ったのかセイバーも先程のシグナムと同様程、激昂した。
同じ経験が・・・・・セイバーにもある。
そう感じずに居られない程、セイバーの顔に怒りが見えている。

「そうね。確かに、自己紹介は必要か。
 ・・・・・・・皆」

フェイトの一声にヴォルケンリッターがフェイトの周りに集まる。

「豪鎚の騎士、ヴィータ」

「深海の騎士、シャマル」

「障壁の守護獣、ザフィーラ」

「ヴォルケンリッターが将。
 剣刃の騎士、シグナム」

フェイトが最後に立ち上がり、ワンピースのスカート部を両の指で摘み可愛らしく会釈する。
その姿はどこかのご令嬢の様な、そんな印象を受ける仕草だった。

「そして私が彼女達の主。
 私の名前はアリシア…………アリシア・テスタロッサ。
 この子達の主であり、闇の書の主よ」

言い終わるのと同時にアリシアの足元に魔方陣が展開。
橙色掛かった魔法陣。光に包まれた各々。
光が晴れ視界が回復した先に立っていたのは黒い衣を身に纏った死神の姿があった。



第十章に続く






〜*あとがき 九章編*〜
ども〜〜です。相変わらず進歩の無い、ルシファーでございます。

AYU:…………。

あれ?いつもマシンガンを飛ばしてくるAYUが静かだ。
なんかあったの?

AYU:……別に。

…………な、なんか普段ボッコボコにしてくる相手が大人しいと逆に怖くなるのはなんででしょう?(−−;)

AYU:もうね、アンタの面倒見るのが疲れたのよ。
    言っても言ってもひとっつも書かないし………。
    誰か私を拾ってくれる、器の大きい方はいらっしゃらないかしら?

いや、ここに居るじゃんσ(^_^;)

AYU:パテル=マテルに潰されて死ね。

ひ、酷い………|||orz

AYU:今回は闇の書が復活(?)する回です。アリシアが生きて居るのはある理由が!

そうなんですよ!ここから怒涛の展開が待っている………と思います!

AYU:…………なんでアンタはそう、テンションを下げる事を出来るかな?

え!?だってあんまり煽って皆さんを期待させてもそれを上回る自信が俺には無i………

AYU:やっぱり死んで来いぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!!!

みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ、ごめんなさいぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!

AYU:……二度と戻ってくんなバカ。
    では、失礼しますね☆

で、ではでは…………ガク



再び姿を見せた闇の書に、アリシア!
美姫 「一体何が!? 滅茶苦茶気になる〜!」
早く次回を、次回を。
美姫 「次回も首を長くして待ってます」
待っています!



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